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【エミー賞主演男優賞受賞】「ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー」主演、マーク・ラファロが語る作品の裏側

本記事では"ハルク"でおなじみのマーク・ラファロが「ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー」について語ったインタビュー内容をご紹介。

原作小説に深く感動し、自ら映像化権を得て製作したという本作。難しい双子の役どころを演じ分けるにあたって、シアンフランス監督とはどのようなやりとりがあったのかなど、マーク・ラファロにとって全く新しい挑戦となった本作の裏側を知ることができます。

本編を見終わった方にはもちろん、まだ見ていない方にもお楽しみ頂ける内容です。ぜひご一読ください。

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■ウォーリー・ラムの原作「この手のなかの真実」について、事前にご存知でしたか?

最初は知らなかった。ウォーリー・ラムと僕の著作権エージェントは同じ人でね。映像化権の取得が可能になった時に大物たちが続々と獲得に動いたんだけれど、ウォーリーが「マーク・ラファロはこの企画に興味あるかな?」と言ってくれたんだ。

著作権エージェントが僕にそのことを話してくれたんだけれど、僕はその時まだ原作を読んでいなかった。週末に原作を読んでとても感動して共感を抱いたし、素晴らしいドラマになるだろうと思った。でも、ドラマ化することをウォーリーが望むかどうか分からなくてね。それで彼に会って、「素晴らしい小説だった。あなたはすごい才能の持ち主だ」と伝えてから、「映画化したら、この小説の良さを十分に活かせないと思う。連続ドラマにするべきではないか」と言ったんだ。

ウォーリーが僕のアイデアに賛成してくれたので、次に「デレク・シアンフランスを監督に起用したらどうかな?」と提案してみた。ウォーリーはそのアイデアも気に入ってくれて、僕に映像化権を与えてくれた。

その後、僕はエージェントやマネージャーたちと各局にドラマ化の打診をしに行った。そのうちに僕は自分で製作を手がけてみようと思い始めたんだけれど、やれるかどうか自信が持てなくてね。僕のマネージメント・チームはとても協力的で、なかでも特にマーガレット・ライリーが強く背中を押してくれたんだ。

マーガレットは「あなたはもう何年も製作をやっているんだから、今までと同じようにやればいいのよ。企画を開発したり、いろいろな人たちと共同作業をしたりして、最高の人材を雇い、自分のクリエイティブな欲求に従えばきっとうまくいくわ」とマーガレットは言ってくれた。おかげで、無事にドラマ化にこぎつけることができたよ。

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■この物語のどんな点に共感をもちましたか?

僕はイタリア系移民の子孫なんだ。僕の先祖はとても貧しく、新たな人生を始めるためにイタリアからアメリカにやって来た。祖父がアメリカで塗装業を始め、労働者階級だった一家はイタリアの伝統を捨てて必死になってアメリカ人になろうとした。彼らにとっては、家族がすべてだった。だから、家族の精神疾患とか家庭内で起きた劇的な出来事とか、家族の秘密は家庭の中だけで守り通した。

僕には弟がいて、僕たちは“イタリア人の双子”と呼ばれていたんだ。弟は僕が1歳にもなっていない時に生まれたからね。僕たち兄弟は、家族がすべてだと信じて育ってきた。家族というものは、お互いの良いところも悪いところも見ているし、素晴らしい面も醜い面も知っている。だから、僕は原作を読んだ時に「この物語に登場するのは僕が一緒に育ってきた僕の知っている人々で、彼らは僕が知っている階級の人たちだ」と思ったんだ。誰もああいう人たちの物語を語ろうとはしないけれど、彼らのような人たちこそが一般的なアメリカ人であり、アメリカの様相なんだ。

この物語に共感したのは、僕も家族がすべてだと思って育ってきたし、双子同然の弟がいたからだろうね。

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■双子の役を演じることに、やりがいと同時に不安を感じましたか?

どうしようもないほどビビったよ。40代後半だった頃はめいっぱい虚勢を張って積極的に仕事に取り組んでいたけれど、52歳になる頃には役者としての自信も男としての自信も、とにかくありとあらゆる自信を失っていたからね。自信のない状態が当たり前になっていたから、うまくやり通せるかどうか以前より心配するようになっていたんだ。

■どうやって不安を乗り越えたんですか?

こういう企画に取り組むうえで、デレクは最高のパートナーだった。彼は役者のそういう弱さを求める監督で、「そうか、君はそんな風に感じているんだね。よし、その感じで撮影してみよう。きっと素晴らしいものになるぞ」と言ってくれるんだ。「君が感じている通りに演じてくれ。まずはそこから始めよう。そのうち、ほかの何かが生まれるかもしれないから」ってね。

基本的に、僕たちは毎日そんな感じて撮影していた。僕が不安だと言えば、彼は「トーマスも不安なんだ」と言ってくれるし、「自分が何をしているのか分からない」と僕が言えば「ドミニクも自分が何をしているのか分かってないからね」と答えてくれる。

僕たちは常に、その時のリアルな感情を重視して撮影していたんだ。その時の感情に向き合うことができ、役者を的確に導いてくれるデレクのような監督がいれば、失敗することはない。山に登るのではなく、ふと気づいたら自分が山になっているような感じだね。

そんなわけで、僕はドミニクとトーマスが感じているように、不安とか自分はできそこないだという思い、それに自信のなさとか、自分の感じていることをすべて役に取り入れながら演じたんだ。

■不安を役作りに取り入れたということですね?

そうだね。

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■ドミニク役を演じた後、トーマス役の肉体的な役作りをするために6週間の中休みがありましたが、その間の心境を教えてください。

宙ぶらりんの状態だった。ドミニク役は演じ終えたけれど、ひるんでしまうような日々が待ち受けていたからね。ドミニク役を演じている間も、先のことが不安でたまらなかった。撮影中は監督やスタッフ、それに共演者たちとずっと一緒にいたから、その不安から逃れることができた。週末は自宅に帰ったけれど、休みは1日だけだった。金曜の夜に帰宅して、土曜は家族と一緒に過ごし、日曜の朝に撮影現場に戻って、その日に撮影するシーンの台本を20~30ページほど読んで準備をした。

そんな仕事中心の禁欲的な生活が続いた後に、突然6週間も家に帰っていいことになったんだからね。僕は途方もなく気の重い毎日が待ち受けていることを知りながら家族のもとに帰ったわけだけれど、その段階でもトーマス役をどう演じればいいのか、まだ分からなかった。あれこれ考えたり試したりして役作りをしてみたけれど、やはりどうすればいいのか分からなくてね。

そんな状態のまま、僕は毎日ひたすら食べ続けていた。デレクに「食べてるかい?」って聞かれたから、「おいおい、僕は52歳なんだぜ。こうやって食べ続けるなんて、いいアイデアだとは思えないね。心臓に負担がかかるだろうから」と言い返したよ。でも彼は、「いいから食べ続けて」と言ったんだ(笑)。デレクに「トーマス役をどう演じればいいか分からない」と言ったら、彼は「食べ続けるだけでいい。あとのことは自然と何とかなるよ」と答えた。実際、その通りだったよ。

僕は撮影前に、妄想型統合失調症を患っているテクニカル・コンサルタントと一緒に、数百時間、いや、数千時間を費やして、統合失調症に関するインタビューの映像を見たんだ。統合失調症についての説明や、患者の日常生活、それに様々な薬が彼らに与える影響などについて人々が語っている映像をね。

僕はそのすべてを頭に入れたけれど、結局のところ統合失調症はトーマスの人格ではないんだ。それは、すでに人格を形成した1人の人間に付加された障害に過ぎない。だから、トーマスがどういう人間なのか追求することが何よりも重要だった。トーマスとドミニクは対等で、トーマスはドミニクと対照をなす存在だ。デレクはそこをよく理解していて、そのシーンに何が必要か常に指示してくれた。僕たちはそういうプロセスと理解を共有しながらドミニクの人物像を作り上げ、観客が好きになれるような人物を作っていったんだ。

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■撮影を経て、ご自分の不安や懸念を払しょくすることはできましたか?

僕は今回、これまでと違う経験をしたと思う。以前は気づいていなかったけれど、僕はすべてを出し切らないようにしていたんだ。ほんの少しだけ残しておけば、失敗した時に「全部を出し切ったわけじゃないからな」と自分に言い訳をすることができるからね。自分では全部出し切っているつもりだったけれど、役者として演技をしていると自分の演技を観ることもあるし、観客が自分に何を求めているか感じ取るようになったりもする。

人間はみんなそうだけれど、自分なりのやり方があるし、居心地よくいられる安全地帯もある。人は自分の安全地帯を見つけたら、そこから出ようとしない。僕もそこにとどまって、快適に過ごしてきた。

でも、デレクはそれを許してはくれないし、そんなことはどうでもいいタイプなんだ。彼は「今のはマーク・ラファロらしい素晴らしい演技だったね。私はそのマーク・ラファロらしい演技が好きだし、見ていたいと思うけれど、違うこともやってみないか。もっと掘り下げてみよう。私はダメな君も見てみたいんだ」なんてことを言うんだ。快適でいられる自分なりのやり方を使わずに演じるなんて、そんな準備はできていないから、やればやるほど期待値に達していないような気がしてしまう。

だから、ある時点から自分を空っぽにして、すべてを出し切るようにした。役にどっぷり浸かれば、目指すところにたどりつける。そうすることができたのは、デレクと彼の演出のおかげだね。

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■原作者のウォーリー・ラムは、「小説を書き始める時は、自らの内なる声に従って物語を書き進めていく」と話していました。演技もそれと同じなのでしょうか?

僕が師事した教師は、「図書館に行きなさい」とよく言っていた。「図書館に行けば、政治的、感情的、そして歴史的な背景を理解することができる。

小道具の使い方とか、その人物が何かを飲む時にどんな風に飲むかとか、サンドウィッチの作り方なんかも理解できるだろう。あらゆる下準備を済ませたら、あとはほうっておくんだ。そうすれば、役がひとりでに羽ばたいでくれるから」ってね。僕はその通りにしているし、ウォーリーもそうしていると思う。

でも、彼はただ単に自分の内なる声に従って物語を書いているわけじゃない。その前にまず豊かな土壌があって、そこから内なる声が生まれてくるんだ。

■ウォーリー・ラムがこのドラマを観た時、あなたは彼と一緒にいたのですか?

一緒に観たわけではないけれど、ウォーリーが観ている間は気が気じゃなかったよ(笑)。彼は本当に寛大だし、僕たちのことをよく理解してくれていたから、「この物語は、もう君たちのものだ。とある会社にはこの小説を映像化する企画が20通りぐらいあるけれど、彼らはどうすればいいのか分からずにいる。君たちには、思い通りにやって欲しい。私が書いた小説があって、今度はそれが映像化される。君たちは私の小説を映像化するうえで、創作上の自由を得ているんだ」と言ってくれた。

そうは言っても、人がどんな反応を示すかなんて予測できないものだからね。僕もデレクもウォーリーのことが好きだし、尊敬もしているけれど、僕たちは小説とは違う独自の芸術作品を作り上げなければならなかった。そこで僕たちは、原作の精神を忠実に取り入れながら、作品に新たな息吹を加えることにした。

ドラマを観たウォーリーから感想を聞くのを待っている時は、本当に不安だった。彼には、このドラマを中止にすることだってできたんだから。「このドラマはゴミだ。原作者として名前を出したくない」と言うこともできたけれど、彼はそう言わなかった。本当にありがたいことだね。

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■ドラマを観終わって、ウォーリーは何と言っていましたか?

ウォーリーは僕たちに素敵なEメールを送ってくれた。彼はドラマのあらゆるシーンにコメントしてくれて、気に入った点や、ドラマとして成立させるために変更せざるを得なかった部分についても感想を述べてくれたんだ。メモも渡されたんだけれど、それには「ぜひ、ご家族にお礼を言ってください。こんなに素晴らしい仕事をさせてくれた奥様や子どもたちに感謝して欲しいのです。あなたのご家族も、感謝に値します」と書かれていた。ウォーリーは完成したドラマに、とても満足していたよ。



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デレク・シアンフランス監督のインタビューも公開中

作品についてはこちら

宇野維正さんによる解説記事はこちら


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