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エンタメ界におけるLGBTQ+も発展途上中/文:よしひろまさみち(映画ライター)

スターチャンネルEXにて絶賛配信中の「WE'RE HERE ~クイーンが街にやって来る!~」。本記事では映画ライターのよしひろまさみちさんに、リアリティ番組の歴史やエンタメ界におけるLGBTQ+の取り上げられ方の変遷を解説頂きました。「WE'RE HERE ~クイーンが街にやって来る!~」が成し遂げたこととは?本編を見た方も、まだの方もぜひご一読ください!

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「WE'RE HERE ~クイーンが街にやって来る!~ 」を観ていると、思い出すのはドラァグクイーンのロードムービー『プリシラ』。アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞し、後にハリウッドで『3人のエンジェル』としてリメイクまでされた大傑作。あれをまだ観たことがないという人は、もうマストで観て! シドニーで活躍する3人のドラァグクイーンが、オーストラリアの砂漠を渡り興行地へ向かうバスツアー。経由した田舎町で受ける差別や、マイノリティ同士の友愛を描いた感動作なのね。なぜこれを想起するかというと、「WE'RE HERE ~」の3人のクイーンたちが田舎町に登場するシーンが、そのまんまプリシラってこと。影響受けてない、なんて言わせません。絶対にインスパイアもオマージュもアリ。だって、ど派手なバス(プリシラは1台のところ、こちらは3台)に、どうみても都市部とは思えない背景に、意気揚々の3人のクイーンって図はまるっきり同じなんだもの。でも『プリシラ』的なのはここまで。そこから先は、90年代の『プリシラ』から格段にアップデートされたものよ。

LGBTQ+のリアリティ番組の草分けといえば、03年にスタートした『クィア・アイ』。もともとは『Queer Eye for the Straight Guy』というタイトルで始まったこの番組は、5人のゲイのスペシャリストがストレート男を改造するっていう、いわば日本のワイドショーでもあった「ご亭主改造計画」的な番組でした。その後はご存じの通り、リブート版が大ブレイク中。そもそもなぜこういう企画が人気を得たか。それは90年代の欧米におけるゲイブームがあったから。「ゲイ=センスがよく、才能に秀でていて、女性の気持ちが分かる」という、今となってはアホらしくなるほど間違ったイメージが固定化してたんですねー。ゲイは女性の友人っていうイメージを決定づけたのが、「WE'RE HERE~」と同じHBOの大ヒットドラマ『Sex and the City』だったことも因縁なんですけどね。いずれにしても、ナイトシーンだけしかフィーチャーされてこなかったゲイ文化が陽の当たるところに出たのは、この番組あってこそだったといえるでしょう。

ところがです。ゲイだって、センスが悪い、秀でた才能なんてこれっぽっちもない、女子心は皆無、っていう人はごまんといるわけで。以前の『クィア・アイ』は、ゲイコミュニティからはそれほどの長く支持を集められなかったのよね。いや、人気はあったけど、嫉妬まじりだったっていうのが正しいかしら(出る杭はたたかれる、っていうでしょ?)。それに、ゲイだけがフィーチャーされてLBTQ+は完全スルーだったのも、よろしくない。気づき始めたのが2010年代のことです。

2010年代はダイバーシティの時代。欧州とカナダで00年代から進んでいた同性婚の合法化の波は、12年のアメリカでの事実上合法化※によって一気に世界中に広まりました(※正確には婚姻における社会保障が、異性カップルにだけ認められていたことを違憲とした)。なんやかやいっても、大国アメリカがやるとなると、他国での取り組みも加速するというもの。アジアでは19年に台湾で同性婚が認められることになり、多くの国で同性カップルが生きやすくなったのね。これはこれで必要、絶対。だけど、ここでも取りこぼしがあったのが10年代の負の遺産なのよ。だって、同性ってことは、LGBはいいとしてもTQ+は置いてけぼり。エンタメ界もさらなるダイバーシティの尊重と認知に乗りだしたのも納得の流れなんですね。

10年代のLGBTQ+を描いた映画やドラマがたくさんあったのは周知のところ。それまでのように、LGBTQ+が笑いの種になったり死んだりせず、きちんと歴史と個性を見つめた作品が続々と生まれました。そのきっかけは05年の『ブロークバック・マウンテン』からと言われているけど、そこから10年代に至るまでの間、階段2段飛ばしでステップアップした感じ。特にドラマ『POSE/ポーズ』は、今のドラァグクイーンカルチャーの礎となった時代を描いていて、本当に勉強になりましたわ。だって、リアリティショーの『ル・ポールのドラァグ・レース』のように、現代の完成されたドラァグクイーンカルチャーのベースが分かるんだもの。

その一方、10年代はSNSの出現で、それまで以上に「個」がフィーチャーされた時代。それゆえに一般人が参加するリアリティショーも隆盛を極めた感があるわよね。長寿コンテスト番組の『アメリカン・アイドル』や『プロジェクト・ランウェイ』などや、恋愛リアリティショー『バチェラー』シリーズがいまだに続いている、というどころか、むしろ最近盛り返しているんじゃない? ってくらいに人気があるのも、SNSの影響が大きいはず。それらって、ただただ勝敗がテーマで始まったけど、最近のを観ると様子はだいぶ変わっていて、出演者個人のパーソナリティをドラマティックに活かしているのよね。そこが支持され続けているポイントだと思うのよ。そこで出てきたリブート版『クィア・アイ』や『ル・ポールのドラァグ・レース』もいわずもがな。セクシュアリティやジェンダーの多様性はもちろんだけど、それだけにとどまらず、個々のパーソナリティそれぞれ、違っていること自体が素晴らしいってことを説いているのが、昔とは著しく違うところ。だって、LGBTQ+だけじゃなくて、マジョリティであるストレートの個性にも切り込むようになったんだもの。

そこで出てきた「WE'RE HERE」。コロナ禍で撮影が中断したっていうのに、いきなりエミー賞ノミネート&シーズン2の製作が決定するのが納得なのよ。だって、いま説明したこの流れにのっとったうえで、『プリシラ』を現代にアップデートしちゃったんだもの。しかもですよ、他のリアリティショーでは観られないほど過酷な環境なのがすごい。カソリックやモルモンなど宗教色が強い街を舞台に選んで、その地のLGBTQ+コミュニティの発展と理解をうながそうなんて、10年前じゃ思いつかなかった。しかも、ダメな人はダメ、っていうことを正直に映し出すってのもいいのよね。だって、保守的な街に乗り込んだのに、拒絶する人がゼロっていう演出だったとしたら真実味が薄れちゃうでしょ。日本の放送局だったら、それを「不都合な真実」として諍いを演出したり、カットしちゃったりして、理想的な展開だけを見せそうなものじゃない。保守的な人達にもそれぞれ理由があって、彼らを拒絶するっていう真実を見せて初めて、そこには分断があるからきちんと向き合うところから始めましょう、っていう提案をしているのよね。ジェンダーやセクシュアリティのマイノリティだけじゃなく、社会における疎外感を抱く人全部ひっくるめて「ドラァグショーやっちゃお!」だなんて、お見事過ぎるアイデアだわよ。

まずは対話。それからの理解と尊重。最近、アカデミー賞の基準変更したっていうのが話題になったけど、アカデミーもようやく気づいたんでしょう。「ダイバーシティの尊重」だけじゃ、本当の理解は進まないこと。だって、なんでもそうだけど「存在は認めるけど、あたしは認めないね!」って、はなから拒絶する人、多いでしょ? ダイバーシティも、対話、そして理解、それからの一体化(インクルージョン)があることを、ハッキリと描き出しているのが「WE'RE HERE」。この番組で描いていることこそが、20年代の課題よ。

文:よしひろまさみち(映画ライター)


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