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混迷の時代にカンフル剤をぶち込む強烈怪作:『ビカミング・ア・ゴッド』/文:SYO(映画ライター/編集者)

キルスティン・ダンストの捨て身の演技に誰もが目を見張ること間違いなしの異色作『ビカミング・ア・ゴッド』について、映画ライター/編集者のSYOさんに解説頂きました。まだご覧になっていない方はもちろん、観終わった人も読めばきっと発見があるはず!ぜひご一読ください。

※なお本稿は前半の一部ネタばれを含みます!あらかじめご了承ください

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何かがある、と思わせる役者がいる。それは悪い意味ではなく、「この人が関わる以上、何か仕掛けてくるぞ……」という期待だ。

その男の名は、ジョージ・クルーニー。「ああ!」と思い至った方も多いのではないか。彼が加わった作品には、毎回一筋縄ではいかない“何か”が渦巻いている。特に、プロデューサーや、エグゼクティブプロデューサーとして入った作品は、その傾向が顕著だ。

クリストファー・ノーラン監督のメジャースタジオデビュー作となった『インソムニア』(02)に彼を呼び込んだのはクルーニーとスティーヴン・ソダーバーグだし、『アルゴ』(12)や『8月の家族たち』(13)、『サバービコン』(17)等々、出演作以外でもプロデューサーとして能力を発揮。

社会風刺がきいたものや史実に基づいた作品が多いのが特徴で、そういった意味では「通好み」なテイストなのだが、そのぶん表層的な面白さとは一味違う、深読みをする面白さ――いわば“掘り下げがい”がある。現在「スターチャンネルEX」で視聴できる『ビカミング・ア・ゴッド』(19)も、彼の嗜好性がもろに出た怪作だ。

本作を一言で紹介すると、「ネットワークビジネスに人生を狂わされ、どん底からのし上がる女性の物語」。なんと闇深い設定だろう。この辺りからも、クルーニー臭がぷんぷん漂ってくる。しかもこの作品、元々はクルーニーと盟友グラント・ヘスロフ、主演を務めたキルスティン・ダンストに加え、あのヨルゴス・ランティモス監督が製作総指揮に入っていたというではないか! 

もともとはランティモスが監督候補だったが、約2年間に及ぶ開発期間(製作プロダクションを渡り歩いた模様)の中で、彼は離脱。それでも、『ロブスター』(15)や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)の鬼才が興味を持っていたというだけで、十分にヤバい作品であることが伝わってくる。

キルスティン・ダンストも、『スパイダーマン』シリーズ(02~07)のイメージが強いかもしれないが、ラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』(11)やドラマ版『FARGO/ファーゴ』(15~)、ソフィア・コッポラ監督との最新タッグ作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(17)など、趣味はかなり“こっち寄り”。プロデューサーは本作が3本目だが、前作『Woodshock』(17)は、A24が北米配給を手掛けたことからわかる通り、かなり振り切った作品のようだ(日本公開を待っているのだが、ちっとも動きがない)。

…とまぁ長くなってしまったが、要はプロデューサー陣を見るだけでも、『ビカミング・ア・ゴッド』がどういうゾーンの作品か、というのはある程度予測がつくのではないか。つまり、言葉を選ばずに言えば「頭がおかしい系怪作」である。作家性が強く、描写も物語も我が道を突き進む系のドラマ。個人的には、こういった偏食作品は大好物だ。

というわけでここからは、全10話構成の『ビカミング・ア・ゴッド』の内容を、1話~3話くらいまでの序盤の展開にとどめて紹介していこう。

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本作のジャンルは、お察しの通り「ブラックコメディ」。舞台は、1992年のアメリカ郊外。乳飲み子を抱え、貧乏暮らしを送るクリスタル(キルスティン・ダンスト)と夫のトラヴィス(アレクサンダー・スカルスガルド)の人生が、ネットワークビジネス「FAM」にのめり込むことで変容していく。この“激変”ぶりが、壮絶だ。

まず、トラヴィスのテンションが壊れていく。ネットワークビジネスは、勧誘システムを敷いている(商品の購入者が販売員となり、次の購入者を勧誘する仕組み)ため、一種の宗教的な側面があるものだが、「上の階級に行きたい」「成功したい」といった欲望に取りつかれ、しかもそれが周囲に伝播していくさまが恐ろしい。

『パラサイト 半地下の家族』(19)や『万引き家族』(18)を筆頭に、近年は「格差」が映画・ドラマ界のトレンドだが、「成功できる」可能性をちらつかされた人間が狂気に染まるさまが、ありありと描かれている。1992年だと、まだインターネットは黎明期。そのため、ひたすら人に会う→勧誘する姿が描かれ、ネットワークビジネスにハマってしまった人間独特の“熱量”が、勧誘される側と共に観る者をむせ返させる。

ただ、このトラヴィス、恐ろしい勢いで退場してしまう。なんと、車ごと池に落下してしまい、ワニに食われるのだ。ここでまさかのワニ! 完全に度肝を抜かれる展開だが、その後に妻のクリスタルがとった行動は常軌を逸している。池に乗り込み、ワニを射殺。ガレージで血まみれになりながら解体し、皮を剥いで心臓をえぐり出す(ちなみに、これが2話のオープニング。食事時に観る方はお気を付けいただきたい。筆者は「ウッ」となった)。

これはスプラッタホラーなのか……?と混乱するほど強烈な展開が待ち受ける本作だが、その後も亡き夫が残した借金地獄に突き落とされ、家までも抵当に取られ、エスカレーターを逆行するかのごとく、どん底まで華麗に転がり落ちていく。もちろん、中盤以降に彼女の“逆襲”が始まるための布石なのだが、序盤は笑ってしまうほどに悲惨な事件が連発するのだ。

そして……。なんといっても衝撃的なのが、キルスティン・ダンストの変貌ぶりだろう。体重を大幅に増量し、矯正器具を付け、さらにはボサボサの髪形に疲弊しきった目など、一見するだけでは、本人とわからないくらいの役作りに挑戦している。

アン・ハサウェイの『シングロナイズドモンスター』(16)や、エル・ファニングの『THE GREAT 〜エカチェリーナの時々真実の物語〜』(20)など、主演俳優が製作総指揮に入る場合、枷を外した演技を披露してくれる場合が多い。しかし本作でのダンストは、完全に常軌を逸したレベルだ。ワニの解体から、ハイレグ姿で空気人形と繰り広げるダンスシーン(何のことを言っているのかわからないと思うが、本当にあるシーンなのだ……)まで、攻めまくったシーンのオンパレード。よくもまぁここまでやるものだ!と観る者を震撼させるレベルで、クリスタルのキャラクターを身体性から作り込んでいる。

かつては町で評判の美人だった、という設定も効いており、ビジュアル面で「栄枯盛衰」「凋落」というテーマを表しているのも上手い(子役から『チアーズ!』(00)など青春映画に出演し、上手に演技派へとシフトしていったダンストの、成功しなかった「If」を示しているようにも映る)。

セリフや人間性も鮮烈で、転んでもただでは起きないどころか、どんどん野性味が増していくのが驚異的。上流階級の人間や役場のスタッフ、雇い主に「こっちは夫が死んでんだよ!」とばかりに食って掛かるさまは、いっそ気持ちがいい。クリスタルには「守りに入る」という意識が皆無で、どんな悲運や不運に見舞われても「畜生!」と叫びながら、それでも人生を投げ捨てることはない。「今に見てろよ」精神で現状を打破していくさまには、感動すら覚える。いわゆる「汚れ役」の極致だが、魅力にあふれているのだ。

そんな彼女が、トラブルをなぎ倒しながらつかみ取るのは、栄光か、それともさらなる挫折か? ほんわかした共感とは一線を画す、フルスイングの圧倒。不思議とスカッとする活力に満ちた、滋養強壮剤的な1本だ。

文:SYO(映画ライター/編集者)

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