海外ドラマ『インベスティゲーション』の魅力を語る on podcast|SYO(映画ライター)・小寺和久(脚本家)
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海外ドラマ『インベスティゲーション』の魅力を語る on podcast|SYO(映画ライター)・小寺和久(脚本家)

2017年にスウェーデンの女性記者がコペンハーゲン近海で切断遺体となって発見され世界を震撼させた”潜水艇事件”。その全貌をドラマ化した北欧クライム・ミステリー『インベスティゲーション』の魅力について、共に海外ドラマが好きな映画ライターのSYOさんと脚本家の小寺和久さん(『全裸監督2』『新聞記者』)が語り合います。本記事ではPodcastで語られた内容の一部を文字起こしでお届けします。

ひたすら事実を積み上げて構築するリアリティに引き込まれる

SYO「小寺さんは『インベスティゲーション』をご覧になっていかがでしたか?」

小寺「非常に優れたハイクオリティなドラマであると同時に、『面白い』という口コミがないとけっこう見づらいなとも思いました。その理由としていくつかありますが、まず事件を扱った実録ものなのに犯人と被害者が一切出てこないこと。これがまず驚きポイントの1つめ。これを聞いて『面白い』と思えないと、第1話が『いったいこれは何だ』という謎が多いので損をしそう。見やすい尺間でとても見ごたえがあり面白く、私も第2話からはグイグイ見始めてイッキ見しましたが、最初が地味だからつい『いったい、いつ血が出るんだ?』と思ってしまいました。全6話を通して事件の全貌が分かるようになっているため、冒頭で損しがちなドラマですね」

SYO「なるほど、脚本家ならではの視点ですね」

小寺「IMDbで海外ドラマの評価点数をエピソードごとに見られるのですが、『インベスティゲーション』は確か第4話が一番高かったと思います」

SYO「物語が動き始めるところですね。小寺さんはIMDbもチェックするんですか?」

小寺「はい。『全裸監督』をやり出してから、海外でどういうふうに見られているのか気になって。『インベスティゲーション』を見ていると、良くできてるな…と嫉妬したり、こういうものを作らなきゃなと刺激を受けるところもありますね」

SYO「僕は最初に予告で『インベスティゲーション』を見ました。予告はある程度派手に作ってあるとはいえ、画力がすごかった」

小寺「すごいですよね」

SYO「本編を見てみると、描いているものは残酷だけど、淡々とした作品。最初の3話まで見て感じたのが、『この人が犯人だと証明するのは大変なこと』という事実を淡々と積み上げていくところの面白さです。海で消息を絶ってしまうと物的証拠がないので、その中で明らかに怪しい人を犯人だと証明するには、いろんな客観的事実がなければいけない。その作業が本当に大変で…見れば見るほど疲れてきて、その体験的な疲れがキャラクターたちの疲れとリンクしていく。だからといって見続けられないわけではなく、真実を求める人間の欲求にグイグイ引っ張られていくのが本当にすごかったです」

小寺「かなりリアリティのある最高の“お仕事ドラマ”ですね。本来、いろんな職業のドラマって、誰でも分かるよういいところばかり映して作品に落とし込んだり、ある程度ドラマ用にデフォルメされていますが、『インベスティゲーション』はまるまるそのまま。こんなにも地味で緻密な作業をしなきゃいけないのかという。うまくいかずどんどん蓄積されていくものが、ある時クリアされスカッとするという、韓国ドラマで“サイダー”と呼ばれているものを違う文脈でたどっている感じでしょうか。リアリティもあるしエンタメ性もある作品です」

SYO「そうですね。最後まで見るとエンタメ要素のフェードが上がっていくんですが、前半がね。“苦労”よりもさらにハードな“労苦”を感じました。僕はデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』が好きなんですが、あれもゾディアックを追っていく人たちの人生が崩壊していく様子を3時間くらいの本編でひたすら描いていて、それを思い出しましたね。調べてみたところ、本作のトビアス・リンホルム監督は『マインドハンター』でエピソード演出を担当していて、なるほど、ここでフィンチャーとつながるのかと気づきました。画力の面でもね。リンホルムがどんな監督なのかというと、若干フィンチャーを想像してもらえると近いかもしれません」

小寺「そうですね。いたずらに濡れ場が出ないフィンチャーというか(笑)、露悪的なものが一切ないフィンチャー」

SYO「ただひたすらに積み上げていく」

小寺「ええ、すごいドラマですよ」

SYO「画で言うと、僕はバックショット(後ろ姿)が印象的でした。小寺さんがよく組んでいる藤井(道人)監督もバックショットを使っていますが、台詞が雄弁でないからこそバックショットが引き立つという、画的な面白さがありました」

小寺「藤井監督はちゃんと意味を持たせながらバックショットを好んで使っていますが、『インベスティゲーション』のバックショットも似たようなところがあります。主人公の目線で事件を覗き見するにあたって、キャラクターの表情が分かるよりは、一緒に入っていって目の前のものを見るという追体験の方が刺さるということなんです。新しい場所に入る時は必ずバックショットから始まるという演出が多用されていましたね」

SYO「それがあるからこそ、犯人の顔も声も、被害者の写真も映らないことが効いてくるんですよね」

小寺「実際に調査している人たちも淡々と目の前の事実と向き合っていて、犯人の顔をそんなに見ないでしょうし、被害者の顔もおそらく見ないでしょうから」

SYO「そう。今まで自分が見てきたドラマと違うのは、犯人の人となりや顔が分からない状態で捜査するところ。そこはかなりの発見でした」

小寺「言われてみれば確かに。素晴らしい視点ですね」

SYO「ドラマなのである程度のキャラクター付けをしたくなるところを、あえて我慢しているんですよね」

小寺「客観的な情報でプロファイリングしています。フィンチャーの『マインドハンター』とかだったら犯人のキャラクターから入るところですが、このドラマはそれとはまったく違うアプローチで、よりリアリティがありますよね」

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脚本家が見た『インベスティゲーション』の“脚本妙”

SYO「脚本の部分についても伺いたいのですが、『インベスティゲーション』は記録映画というか調書のような報告書スタイルですよね。この作品を脚本部分で因数分解していくと、どのように感じましたか?」

小寺「誰が監督か分からないまま脚本だけ出回っても、『これはうまくいかないんじゃないか』と思われそうな脚本ですね。ケレン味もないし冗長に感じられるし、出てくるのも台詞と証拠物件ばかりで『エンタメ性はどこにあるんだ?』と思われそう。ただ、それを排したことで作品の個性につながっていて、監督の『これならいける』という気持ちと抱き合わせで勝算になったのでしょう」

SYO「監督が脚本も手掛けていてイメージが浮かんでいるからこそ、ということですね」

小寺「そうでしょうね。監督が『できる』と確信しているからこそ、プロデューサーも『きっとこの人なら面白くできる』と任せることができたのでしょう。そういう意味で、とても作家性の強いドラマ。誰が撮っても面白い作品ではないと思います」

SYO「日本だったらそもそもこの企画は通りますかね?」

小寺「通らないか、すごくマニアックな人が『こんなの見たことがない!傑作になる!』とお金を出すか。また、視聴者のリテラシーも試されるところがあるため日本のマーケットではウケないだろうから、海外をある程度見すえないと難しいでしょうね」

SYO「日本ではこの潜水艇事件を知らない人も多いけど、本国では有名な事件というのもアドバンテージとしてあるのかも」

小寺「そうでしょうね」

SYO「有名な事件だからこそ、事実と真摯に向き合う必要がある。そのためにもフィクショナルな要素を削いでいくことができたのかもしれません」

小寺「このドラマは、おそらく最初は話数が決まってなかったと思うんですが、愚直にすべて描いていくとちょうど全6話に収まるような事件だったんでしょうね。どんどん証拠が出てくる小出しの展開も、実際に捜査していってるような感じがしますから」

SYO「捜査員がやりたかったのは、犯人の証明、つまり殺人が行われたかどうかということ。最初は容疑者が事件と関係あるか無関係かというところから入り、その後、死体遺棄の証明までたどり着きますが、大事なのはそこで殺人があったかどうか。事故死か殺人かで罪状はまったく変わるので、1個1個調査を積み上げていくわけです」

小寺「面白いのは、犯人側がコロコロ証言を変えること。そのたびに、証言を論理的に切り崩すため新たな証拠をつかまなければいけなくなるという、ある意味法廷ものに近い面白さがありました」

SYO「法廷ものとなれば主人公と犯人の対決を見たいところですよね。アクリル板越しの対決とか。でも、このドラマではそれをやらない」

小寺「部屋にも入れてくれない(笑)。まさかの伝聞。でも、没入しながら見ているからドラマに入っていけるんですよね」

SYO「本当に画期的だと思います」

小寺「画期的ですよ。たまの休みに殺人鬼をモチーフにした映画を見に行ったとして、1年もたてば内容を思い出せなくなるかもしれませんが、このドラマは1年後でもどんな事件だったか言えるぐらい、頭の中で想像させる描き方をしています」

SYO「ダイジェスト的な内容ではあるけど、僕たちも実在の人たちと同じ手順を踏まされるから、事件との向き合い方もまったく変わってきますね」

小寺「映像記憶を越えるインパクトがありますね。描き方の可能性が広がるような」

SYO「この作品の応用で、何か新しい実録犯罪ものを作れるんじゃないかな」

小寺「ウケないんじゃないかと言われそうな、ちょっとチャレンジングな作りですよね。世の中である程度、物語というものが飽和したからかもしれませんが、こうやって個性として世に出されて面白いと認められるのだから、すごい作品だと思います」

ドキュメンタリーとフィクションのギリギリの線を攻めた“いいとこどり”のドラマ

SYO「『新聞記者』も実在したものをベースに作っていく作品ですが、脚本を書くのは大変じゃないですか?」

小寺「そうですね。インタビューをして文献も読んだり。専門知識が多くなるけど、その専門知識を知らない人が見るとなると、あまり専門的になりすぎると付いてこれなくなるし。ちゃんと観客の欲求と興味を満たしつつ、派手な絵を見せずに事件を進めていく。監督に『これが面白い』という信念がないと、本当に淡々とした作りになってしまいますね。そういう意味でも『インベスティゲーション』はバランスがすごいと思います」

SYO「脚本を書く時は、完全オリジナルと実話ベースで勝手は違ってくるものですか?」

小寺「原作もの、オリジナル、実話ベース…いずれも全然違いますね」

SYO「労力で一番大変なのは?」

小寺「それは三者三様かな。その話からつなげて言うと、もし『インベスティゲーション』が創作ストーリーだったら、ここまで面白くなかったかもしれません。実際にあった話だから説得力があり、『そんなわけないだろう』というところも『実際にありそう』と思わせる情報性がある。そして、見た後に知識として蓄えることもできるから見てみようか、という意欲にもつながるかもしれません」

SYO「確かに。この潜水艇事件ですごいなと思ったのは、個人が潜水艇を持っていること。発明家で自分が設計したけど、設計図がないので証明できない…そんなことってある?っていう(笑)」

小寺「あるんですよね。この潜水艇に関しては犯人が一番よく知ってるんですよ。自分で作ったから。フィクションだったら『いやいや、そんな』と思いそうだけど、実際にそうなんだから面白いですよね」

SYO「しかも自分で沈めてしまう。序盤では被害者が自分でハッチに頭をぶつけて亡くなったかどうかというシーンが描かれ、中盤では潜水艇の中の気圧がどうだったか証明したいけど設計図がないから分からない…。しかも犯行現場の海が厄介なことに国境付近だから、2つの国が協力して捜査しないといけない。こんなことが本当にあるの?と思うけど、あるんですよね」

小寺「しかも捜査で海流を読むんですよね。そんな地味な作業にも私たちは付き合わされるわけで、それがまた面白いです」

SYO「海流を読んでバラバラの遺体を1個ずつさらっていくという…」

小寺「そんな難しいことを見ても面白くないと思うかもしれませんが、ドラマを見ていると『すごい、海流を読めた!』と思えるんですよ」

SYO「ここまでの私たちの話を聞いて『このドラマ面白いの?』と思う人もいるかもしれませんが、めちゃくちゃ面白いんですよ」

小寺「そうそう」

SYO「この作品はドラマ要素を抜いたところに真のドラマ性が立ち上がっているので、いわゆるドラマティックな作品に慣れてしまった人の方が刺さるかもしれません」

小寺「Filmarksを見ていると映画に対して『ここがつまらなかった』『これが足りない』と粗探しみたいにネガティブな意見を書く人がいて、それはそれで『こうやって映画を楽しんでるんだな』と思いますが、そうした人にこそ『インベスティゲーション』を挑戦状的に見てほしい。思わず唸るかもしれませんよ」

SYO「もし『これが足りない』と思っても『これが事実ですよ』と(笑)。それでいてドキュメンタリーでもないという絶妙さ! ドキュメンタリーとフィクションのギリギリの線を攻めているあたりは、脚本家目線としてどう感じますか?」

小寺「ドキュメンタリーは、監督とカメラの眼差しで切り取っていくセンスで成り立つもの。一方、作りものであるフィクションは、語り口で面白くしていくもの。『インベスティゲーション』にはこれら2つが絶妙に同居していて、ドキュメンタリーとフィクションの間にうまくハマった、いいとこどりができているドラマだと思います」

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骨太な作品でありながらクリフハンガーの仕掛けも絶妙

SYO「『全裸監督』もそうですが、実際に起きたことに虚実を織り交ぜていく時、小寺さんはどんな点に注意しますか?」

小寺「『全裸監督』の場合は“Based on a True Story”(史実に基づいたフィクション)と銘打っています。つまり、史実にのっとっているけど、事実でも面白くならないものは切り捨てたりデフォルメしてもよく、フィクションが多めでも大丈夫ということ。ただし、あまり外れすぎると事実とは変わってしまうので、事件ものの場合はドキュメンタリーに寄せていくことになります」

SYO「『新聞記者』とかがそうですね」

小寺「『ソーシャル・ネットワーク』や『スティーブ・ジョブズ』のような伝記ものは、多少変えても大丈夫なのでいじっているはずです」

SYO「『ソーシャル・ネットワーク』は相当いじってますよね」

小寺「そのあたりはネタに合わせて使い分けることになります」

SYO「そう考えると『インベスティゲーション』は本当にすごいですね」

小寺「そうですね。愚直なドキュメンタリー性によって面白味を獲得しているわけですから」

SYO「ドラマ的な要素があるとすれば、被害者遺族を丁寧に描いているところ。亡くなった女性ジャーナリストの両親の苦労や悲しみをしっかり描いています」

小寺「このドラマのラインは大きく見ると、事件解決ライン、被害者遺族ライン、主人公の家庭ラインの3つ。その中でも被害者遺族は、事件解決に次ぐ2番目のウエイトでしっかり描いてますよね」

SYO「すごいなと思ったのは、被害者遺族の両親が取り乱さないこと。本当は取り乱しているだろうけど、そこを描かないのがまたリアルですよね」

小寺「きっとここに至るまでに泣いたり叫んだりしてるでしょうが、それをあえてオフにして、毅然と捜査員と向き合っている両親として描いているわけです」

SYO「そういう意味で、この作品はビジュアルとして登場する人に悪人がいない。マスコミも真摯に対応し、変な越権行為もしない。みんなが自分の仕事を尽くして犯人に立ち向かっていくという話なんですね」

小寺「みんなが真実を究明する欲求を持ちながらどんどんドラマを進めていくことで、『事件の闇VSそれを探る人間』という対立構造で見せているわけです」

SYO「ある意味、主人公と検事もタッグ関係。そうした構造になっていると、見ている私たちも『中途半端に見てはいけない』と姿勢をどんどん正していく」

小寺「骨太ですよね」

SYO「骨太だし、視聴者のことを信じているのが伝わってきます」

小寺「そうですね。視聴者のことを信じて作られた、すごく高級なエンタメです」

SYO「付いてこれるだろうという信頼を感じると、こっちも嬉しくなってちゃんと見ようと思えます」

小寺「とはいえ、話数を重ねるごとに内容を理解していけるから、難解というわけでもありません」

SYO「このドラマって意外にちゃんとチュートリアルが入るんですよね。ホワイトボードを使いながら、犯人の動機として挙げられるものを全部書き、『こんなことを言ってるから怨恨の線は消えた』と1つずつ消していく。まるで数式の証明のように。あれは見やすくて面白く、非常に助かりますね」

小寺「実際の捜査がまさにそう。一度怨恨の線が消えても、別の可能性が挙がって来た時に怨恨の線がもう一度挙がってくる。そしていろんなことを実証していくために、いちいち可能性を想定しながら潰していく。ロジカルな作業で面白いですよ」

SYO「このドラマでもう1つ気になったのが、事実を積み上げていく作品でありながら、ドラマとしての面白さもひそかに追求しているところ。例えば、各エピソードのラストシーンで、続きを見たくなるような引きがちゃんと設計されているじゃないですか。潜水艇が上がってきて、ああ…みたいな。そのあたりはどう感じました?」

小寺「私も同じことを思っていました。『面白いという前提がないと第1話を見づらい』と先ほど話しましたが、それはスタートが地味だから。私は全話イッキ見しましたが、それは各話の冒頭数分と終わり方において、常に続きが意識されていたからです。例えば、第1話の終わりで潜水艇が出てきて、第2話の終わりでは胴体が見つかって騒ぎになり他殺で確定かと思わせ、第3話に移ると犬の顔が出てきて『何だ?』と惹きつけておき、また新たなものが見つかって第3話が終わるという。ちゃんと連続ドラマ向けの構成になっていて、イッキ見しやすいなと感じました」

SYO「クリフハンガー的な構成ですね。小寺さんが脚本を手がけた『全裸監督 シーズン2』でも同じことを感じました。あれもうまいです」

小寺「各話の最初と最後は完璧なクリフハンガーにできたと自負しています」

SYO「そこは重視したわけですね」

小寺「もう命がけで」

SYO「やはり連続ドラマの戦い方としてクリフハンガーは重要なのでしょうか?」

小寺「はい。でも日本のドラマだと次回まで1週間空くから、クリフハンガーはそんなに大事じゃないんですよ。毎回視聴率が出るから、どんな終わり方かよりも、どれだけ話題になる要素を詰め込めるかが重要。一方、海外ドラマは次も見させるようにつなげることが重要で、それこそその場で何も起きなくても、全部次回に振ってしまえばいい。『次にどうなる?』と思わせる作りになっているわけです」

SYO「一挙配信のようなドラマならではの戦い方もあるんですね。そちらの方がクリフハンガー的な要素を強められると。なるほど」

小寺「むしろ『この話は面白かった。〇話最高!』というのはどうでもいいこととして、次のエピソードに行かせるところが海外ドラマはうまい」

SYO「そういう視点で考えると『インベスティゲーション』も、一見地味だけど実はとても緻密なんですね」

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時間の経過を体感させる緻密な演出と演技に感服

SYO「『インベスティゲーション』を見て、小寺さんがご自身の脚本作りに活かしたいと思ったところはありますか?」

小寺「何個かありますが、まずは構成のうまさとトーンの保ち方。トーンはいたずらに上げればいいわけではなく、ケレン味のあるシーンを作るという発想がなくても、視聴者の気持ちをちゃんとグリップできるよう重要視できれば、短絡的に派手なシーンを作らなくてもそのままずっと引きずり込める。そこが勉強になりました」

SYO「派手なシーンがないとはいえ、絵の力強さはありますよね。印象的だったシーンはありますか?」

小寺「明確にまぶたに焼き付いているのが、第1話の最後に海から潜水艇が上がってくるシーン。本当に撮ったの?というぐらい派手で、そこまで我慢していたからこそ驚きを得られるダイナミックな絵ですね」

SYO「この作品は海が象徴的にたくさん出てきますよね。黒い海が(笑)」

小寺「そうですね、北欧の寒い海が。調査が大変だったと思いますよ」

SYO「先ほど話に出たバックショットの使い方とか、ジリジリと寄っていくカメラワークも印象的です。私が絵的にビックリしたシーンも、ジワジワ寄って何か黒いものが見えてきて潜水艇がバーッと出てくるところ。まさに今まで隠してきたからこその驚きです。そして後半に行けば行くほど、それまで抑えていたドラマ要素が増していき、音楽も含めてとてもエモくなるんですよね」

小寺「音楽、めちゃめちゃ鳴ってましたね」

SYO「なんだ、できるんじゃん!って思いました。そして、そういう演出力のある人が、あえてエモーショナルに見せることを封印して徹したからこその妙を感じましたね」

小寺「そうですね。できるのにやらないという」

SYO「それから、ポスターにもなっていた、捜査員が1列になって海をさらっているシーン。あれも強烈でした。バラバラになった遺体を海の中から見つけなきゃいけなくて、1つずつ見つけていくけど、1つだけだと死因が分からない。遺体をバラバラにして広大な海に捨ててしまった者の罪を証明するのは、こんなに大変なのかと痛感しました」


小寺「それでも真実はちゃんと掘り起こされるし、途方もない作業でもちゃんと見つけられるんだ、という希望も感じられました」

SYO「そうなんですよ。最初の数話は捜査もどうすればいいのか分からず、犬を投入するかどうかという話になるほど(笑)。犬を投入するには隣国の許可がいるから」

小寺「でも、やっと投入できても、犬がなかなか見つけてくれないんですよね。そのへんも面白い」

SYO「ダイバーも連日潜っているからおかしくなっちゃう。『俺たち何してるんだ』みたいな。このドラマはちゃんと映像で『〇日目』と出てきて、時系列を丁寧に積み上げていますが、こういう脚本の書き方をどう思います? ストレートだけど、逆にじれたりしないかなと感じるのですが」

小寺「脚本には“日替わり”という概念があります。同じ1日でも、いろいろあってすごく長い1日もあれば、これだけしか見つからなかったという1日もあるわけですが、この作品では特に進展もなく100日後へ一気に飛んでも、ちゃんと演出や役者の演技によってその時間を蓄積させているんです。時間経過が視覚的にもよく分かるよう、作り手は相当意識していたのでしょう。時系列順に進むことで視聴者がキャラクターと一緒に労苦を共にするという、うまい作りになっています」

SYO「監督が映像と脚本をセットに考えているというのは、そういうことか。脚本だけで考えると、丁寧に描いてばかりだと少しはジャンプアップしないと画的に面白くないかもと思いがちだけど、映像とセットで考えているからこそこの作品のように時系列に沿った構成が成立するわけですね」

小寺「そうです。しかも『(500)日のサマー』みたいに200日目が冒頭に出てから過去に巻き戻ることもない。ずっと1、2、3日目…と我慢してちゃんと進んでいくのが見どころでもあります。最初の方は頭をフル回転しないと分からないところもありますが、見ていれば簡単に分かりますから」

SYO「途中で時系列が50日ぐらい飛ぶシーンがありますが、小寺さんが先ほど話されたように、役者たちがみんな50日分疲れているところがすごい(笑)」

小寺「そうそう。絶対50日分調査していたんだろうなって」

SYO「そうした絵的な整合性がすごく感じられました。貧乏な設定の人の歯がすごくキレイ、みたいなことがないんですよ」

小寺「ダイバーは海に潜って疲れた感じが出ているし、まさに時系列そのもので物語を語っています」

SYO「どんな撮影現場だったんだろうと思いますよね。小寺さんは脚本を書いた作品の現場にどんな感じで参加するんですか?」

小寺「基本的には顔を出す程度です。仲のいい監督なら現場まで行くこともありますが、脚本家が行ってもやることはないんですよ。芝居を見ながら自分の書いたセリフと照らし合わせ、どのように演出されているか一度チェックすれば、あとはずっとベタ付けで見ていても邪魔にしかならないし。本当は現場に行きたいけど、あまり行けてないですね」

SYO「それは現場を信頼して任せるということですね」

小寺「そうですね」

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見る前と後で、確実に自分の感覚が変わるドラマ

SYO「では最後に『インベスティゲーション』の見どころポイントについてお互いに語りましょう。まずは僕から。この作品は最初と最後で自分の感覚がまったく変わっていくと思うんです。最初は知らない世界で起きた事件くらいに思って見ていたのに、最後の方は自分も捜査員の一員みたいな気になってしまう。終わった後にこの作品の真の価値が分かるという、ぜひ皆さんにも味わってほしい体験ができました。映画を1本見るのとはまた違った感覚です」

小寺「私も近しい内容ですが、全6話を見て確実に損はないと思えるのは、潜水艇事件という遠い世界で起きた事件がかなり完璧に分かることと、これがドラマとして問題提起されて世に出たことへのメッセージ。事件の概要、問題提起、そしてメッセージの3つが絡み合っていて、見て損はないし自分の経験知識として得られるような骨太な作品です。そしてここまで話したような作り方をしているからこそ、自分の記憶にも残るところがポイントだと思います」

SYO「確かに、この事件が劇映像化されたところに意義を感じます。最初は『北欧の作品だし話も面白そう』なんて軽い気持ちでいた自分を反省するような、骨太な作品ですね。すごいものを見たな…というのが正直な感覚です。先ほど小寺さんが話されたように、物語性がある程度飽和したからこそこういうドラマが面白く感じられるという、出るべくして出た作品とも言えますね。そろそろ番組も終わりとなりますが、いかがでしたか?」

小寺「こんなにドラマについて愚直にしゃべることはないので、楽しかったです。そして、いいドラマだったなと再認識できました。語りがいのあるドラマです」

SYO「僕は小寺さんの目線が面白すぎました。自分と見ているところが違うというか、書き手のプロならではの目線が面白かったです」

小寺「私は評論的なことができないので、今回のようなトークで良かったのかどうか疑問ですが、ドラマの話をするのは楽しいですね」

SYO「こうやって語れるのは、作品に力があるからこそですよ。いやあ、いい時間でした。聞いてくださった方たちも同じように思ってくれたら嬉しいです。どうもありがとうございました」

小寺「ありがとうございました」

▼Podcastの視聴はこちらから▼

▼本編のあらすじほか作品情報はこちら▼
https://www.star-ch.jp/drama/investigation/sid=1/p=t/

▼トビアス・リンホルム監督×ピルー・アスベック×ソーレン・マリンの『ある戦争』もスターチャンネルEXにて配信中▼

是非『インベスティゲーション』と合わせてお楽しみください!
視聴リンク:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B06XYSBVSW

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© 2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

『インベスティゲーション』(全6話)配信情報
Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて全話独占配信中。
ご視聴はこちら▶▶https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08WC67L79

©Henrik Ohsten and Miso Film
©Per Arnesen and Miso Film


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