けっして画面から目が離せない! 英国発の問題作『ザ・キャプチャー 歪められた真実』はデジタル時代の「1984」(文:大森さわこ)
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けっして画面から目が離せない! 英国発の問題作『ザ・キャプチャー 歪められた真実』はデジタル時代の「1984」(文:大森さわこ)

スターチャンネルEXおよびBS10 スターチャンネルで絶賛配信・放送中の海外ドラマ『ザ・キャプチャー 歪められた真実』(全8話)。本作について、映画ジャーナリストの大森さわこさんに解説いただきました。ぜひ、本編をあわせてお楽しみください。

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 BBC製作のテレビ・シリーズ『ザ・キャプチャー』は現代の監視社会の怖さをテーマにしたスリリングな犯罪スリラーである。緻密な構成とスピーディな展開で、画面からずうっと目を離すことができず、見ている方もどんどん深みにハマっていく。

 監督はドキュメンタリー作品も手がける英国の監督、ベン・チャナンで、過去にティーンのハッキングの問題を描いた“Cyberbully”(15 年)などのドラマでも高い評価を受けている。今回のドラマに関しては2019年にBBCのラジオ番組に出演した時、製作のいきさつをこんな風に語っていた。

「8、9年前に何本か警察に関するドキュメンタリー作品を手がけたが、そのうちの1本はテロリズムに関するもので英米の関係者に取材をした。その時、ビデオ映像が事件において有力な証拠になることが分かった。CCTV(防犯カメラ)の映像が殺人事件などの証拠となることも知った。そして、簡単にビデオ映像をごまかせることにも気づいた」

 その時、得たアイデアをもとに監督は『ザ・キャプチャー』の構想をふくらませていったという。ちなみに2020年の英国セキュリティ産業協会(BSIA)の報告によると、英国には400~600万台の監視カメラ(CCTV)が取り付けられていて、人口100人に対して7.5台のカメラが監視していることになるという(アメリカ、中国に次いで、世界で3番目の監視率の高さ)。

 英国といえば反逆児的な作家、ジョージ・オーウェルが1949年に発表した「1984」という先駆的なディストピア小説があり、ここでは“ビッグ・ブラザー”と呼ばれる権力者が人々の様子を監視していている姿が描かれたが、『ザ・キャプチャー』はまさにデジタル時代の「1984」ともいえるショッキングな内容になっている。

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 物語を追っていくと、軸となるのはアフガニスタンからの帰還兵、ショーン・エメリーである。彼は戦争中に武装したタリバンのひとりを銃殺した罪で半年間、服役している。そして、裁判では証拠のビデオに欠陥があることが指摘され釈放される。しかし、判決が出た夜、さらに衝撃的な事件が起きる。彼が自分の弁護を担当した魅力的な女性弁護士、ハンナ・ロバーツと親密そうに話をし、彼女とキスをした後、急に暴力をふるう映像が防犯カメラ(CCTV)に映し出され、その後、ロバーツは行方不明となる。エメリーは暴行と拉致容疑で逮捕される。彼と別れた後、彼女はバスに乗った、と主張するが、バスの映像にロバーツの姿はなかった。

 この事件の捜査を担当するのは警察の殺人課の警部補、レイチェル・ケアリー。彼女は4年間、警察のテロ対策司令部(SO15)に所属していたが、別の事件の実績が認められ、あえて殺人課に転属された。今回の事件の証拠となっていた防犯カメラの映像は「安全保障上の問題」という理由で上部に没収され、証拠として使えなくなる。その結果、エメリーは釈放される。

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 彼は自身でロバーツのゆくえを追うことを決意し、彼女の家を探りに行く。そんなエメリーの動きに気づいたケアリーの部下、巡査部長のパトリックとナディアが彼を尾行する。その様子をケアリーは本部の防犯カメラで監視している。エメリーはロバーツの家に侵入するが、そこで不審な男と出会い、あわててタクシーで逃走する。やがて、その車の運転手は彼を車に閉じ込め、ある建物に連れ込む。

 ここまでは弁護士ロバーツの暴行事件と失踪の謎をめぐり、元軍人のエメリーと警察側のケアリー警部補の話が中心になっているが、エメリーがその家に連れ込まれた後は、さらに謎の人物が登場する。アメリカ諜報員のフランク・ネイピアが現れ、彼はロバーツのゆくえを知るため、エメリーに荒々しい態度を見せる。彼の狙いは何なのか?エメリーが拘束された屋敷はイートン・スクエアに位置しているが、ふたりの巡査部長、ラティフとナディアは彼が家に入る姿を目撃していない。そのことに不信感を抱いたケアリーはイートン・スクエアの家を捜査するが、エメリーはいない。そして、彼が屋敷に連れ去られる様子を記録した映像は本部に戻ると消えていた。

 映像のトリックに不信感を抱いたケアリーのもとに放送局のビデオ・エンジニア、マーカスから連絡が入る。彼はエメリーの裁判の時、戦場での映像の不備をつき、彼に有利な証言をしていた。彼との会話で映像編集上のトリックを知ったケアリーは防犯カメラの映像の信ぴょう性を疑い始める。

 一方、すきをついてフランクの拘束から逃れたエメリーは友人の車で逃げるが、その車の後部にはロバーツの死体が隠されていた。ケアリーはエメリーのもとに駆け付け、彼を説得しようとするが、彼に車を奪われ、逃げられてしまう。彼がいたのはイートン・スクエアではなく、ガスター・スクエアであったことを知るケアリー。やがて、彼女は現在の上司のガーランド警視、元上司のハート部長、アメリカ諜報員のフランクの3者が共有する秘密を知ることになる。彼らは“コレクション(修正装置)”と呼ばれる映像トリックを作り出し、警察や諜報部がテロリストたちを逮捕するためにあえて利用してきた。一方、ホールやロバーツといった弁護士たちは彼らの企みを暴くため、エメリーが暴行するフェイク映像をライブで流した。戦場の事件で有名になったエメリーの名前をあえて利用しようと考えたのだ。

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 最初はエメリーの暴行や拉致事件のゆくえが描かれるが、やがてアメリカの諜報部もからむことで国家規模のおそるべき計画が暴露される。一方、彼らの計画を暴こうとする弁護士たちも、善の象徴ではなく、エメリーのような市民を本人が身に覚えのない事件に巻き込む。そんなエメリー自身も、戦地で敵方を射殺したという罪を背負っている。また、野心的で、頭が切れるケアリー警部補も、真実の追求に全力をつくすが、かつては上司のハートと不倫関係にあり、事件捜査においては違法な手段も取る。このドラマの中心人物たちはけっして潔白ではなく、負の部分や残酷な側面も持っている。

 グレーな部分を抱えた人物たちが登場するからこそ、先の展開が読めず、スリリングな展開になっていく。人間はどこまでモラルの線を踏み越え、どこで思いとどまるのか? 本当の正義というものが存在するのか? そんな問いもなされることで、『ザ・キャプチャー』は犯罪スリラーの枠を超え、優れた心理ドラマにもなっている。

 俳優たちも好演で、この映画で英国アカデミー賞主演男優賞候補(テレビ部門)となった新鋭のカラム・ターナーはアメリカ映画の主演作『さよなら、僕のマンハッタン』(17)の頃はまだ頼りない印象だったが、今回は人間的な欠点はありながらも、幼い娘に深い愛情を注ぐ若い父親役をリアルに演じてみせる。ケアリー役の英国女優、ホリデー・グレインジャーは、頭の切れるクールな女性警官役があまりにもハマっていて、次にどんな行動をとるのかドキドキしながら見入ってしまう(グリーンのコートもよく似合う)。『ヘルボーイ』シリーズの怪優ロン・パールマン、『X-メン』シリーズのファムケ・ヤンセンなどハリウッド映画でおなじみの俳優たちも存在感を示している。

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文:大森さわこ(映画ジャーナリスト)
映画誌、音楽誌などに定期的に執筆。英国の映画人に数多く取材。
ウェブ・マガジン、cinemoreにレギュラー参加中。芸術新聞社のHP
連載の「ミニシアター再訪」を加筆した著書を刊行予定。

『ザ・キャプチャー 歪められた真実』の作品情報詳細は▼

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